
塩田 勉 (小児科医)
子どもと家族の生活の場
僕は小児科医です。 コロナ災害の中でも、多くの出産に立ち会わせていただき、子どもたちの治療をさせていただきました。
さて、赤ちゃんはどこから生まれてきますか?もちろん、お母さんのお腹の中です。生まれてくるまでには、お母さん、お父さん、ご家族みんなが支えあってきたことでしょう。そして、いざ出産。家族にとっての一大イベントです。ご両親はもちろん、家族みんなが赤ちゃんの誕生を祝福します。お兄ちゃんやお姉ちゃんは、あの赤ちゃんの泣き声を聞いた時、命の大切さを感じるのです。そして赤ちゃん自身は、みんなに囲まれて、さっそく抱っこされて、この世界の温かみを実感するのです。ん
でも、そんな赤ちゃんもずっと健康ではいられません。ウイルスやばい菌にすぐに暴露されます。風邪をひくこともあるでしょう。時には肺炎になったり、胃腸炎になったりもします。その時看病してくれるのは誰ですか?お母さん?お父さん?そう、風邪を治すのは医者ではありません。薬でもありません。お母さんが「大丈夫だよ。すぐ元気になるからね。もうちょっとがんばろうね。」と言いながら、作ってくれた温かいスープ。繰り返し冷やしてくれた氷枕。入院しちゃったけど、お父さんが付き添ってくれた経験。それらは子どもの記憶に残ることでしょう。家族に看病してもらった経験が愛着となり、優しい子に育っていくのです。
赤ちゃんは、お母さんがいなければ、母乳がもらえません。両親は病院で、授乳・沐浴・おむつ替え等の育児練習をする必要があります。子どもたちは、入院中も保護者との食事を望んでいます。小児科において、保護者が病院にいることは、面会ではありません。それはケアの一つであり、子どもたちが生きるための手段といっても過言ではありません。病院は、子どもたちにとっての、生活の場なのです。
Family Centered Care という考え方があります。患者や家族は医療の対象者ではなく中心者であり、医療者はあくまで支援者であるというものです。そこでは、㈰ 尊厳と尊重 ㈪ 情報共有 ㈫ 参加 ㈬ 協働 に重きが置かれます。お子さんと家族は、入院中も中心者として尊重され、情報を十分に得て、主体的に参加しながら、医療者と協働しながら生活するのです。
コロナ災害の下で、面会時間は制限されました。出産の立ち会いはできなくなりました。オンライン面会なるものが広がりました。COVID-19というただ1つのウイルスしか見えなくなった大人たちによって、子どもたちの大切な経験・生活が奪われました。多くのものを失ったと感じています。
子どもたちは、親にたくさん抱きしめてもらうことで、ぬくもりを感じます。同じ空間でゆったりと過ごすことで、安心感を得ます。そこでたくさんの愛情を感じることで、人に優しくなれるのです。入院という大変な状況の中でこその経験が、子どもたちを成長させるのです。